かつて、沖縄をはじめ日本の各地にはそれぞれの気候風土に合った住宅形式があった。しかし、戦後の都市化の中で、その伝統的な住宅形式が失われ画一化し、南北に長い日本において南端の沖縄と北端の北海道にのみ、他の地域と異なる住宅形式が存在する。私は二十年程前、初めて沖縄を訪れ、フラットルーフのコンクリート造の住宅からなる沖縄の街を見て日本本土の住宅や街並みとの大きな違いに驚いた。そして、その後、アジア・インド・中近東を旅行した際、沖縄の風土とはまったく異なる国の新興都市で、沖縄の住宅や街並みに似たものを多く見かけた。これらの住宅はフランスの有名な建築家ル・コルビュジェ(一八八七~一九六五年)が考え出したドミノ式住宅に類するものであった。つまり、現在の沖縄の住宅はその風土に合った地域性のある独自の住宅形式ではなく、構造的に堅固であり、容易に建設できるがゆえに普及した「インターナショナル」な住宅形式なのである。

防風林や石垣に囲まれ、中庭に面して雨端(縁側)をもつ開放的なプランで、赤瓦や茅葺き屋根をもつ木造二棟からなる住宅形式が沖縄の伝統的住宅とされてきた。この木造住宅は台風や白蟻に対し強固ではないが、開放的プランであるため、縁側を介して外部と内部が連続し涼しく快適で、建物そのものが風土に溶け込み、美しい景観をつくっていた。今、世間で問われ、話題になっている『環境共生型建築』そのものであった。しかし、残念なことにこれらの伝統的住宅や街並みはすべて沖縄戦で失い、戦後もその優れた建築文化や街並みが伝承されることはなかった。

そして、この台風対策の鉄筋コンクリート構造の採用が外観上の沖縄の住宅形式を決定づけ、その外観は街並みをつくることになった。一方、内部の平面プランは、当初伝統的な裏座を持ち二間続きの和室を持つ間取りであったが、次第に日本のどこでも見られるDKタイプの一般的な間取りに移り変わってゆく。構造を除けば、今や日本本土の住宅とさほど違いはないのである。

ところで、住宅の画一化の主な原因は何なのか。ひとつは、居住地の密集化により敷地にゆとりがなくなり住環境が悪化し、住宅内部を守るために「閉じたプラン」になったこと。そして、生活様式の変化により居室が個室化し、生活道具が増えたことなど。つまり、住宅そのものが外部環境から切り離され、住宅の内部のみが関心事となったことが風土に合った住宅形式の住宅を失わせ、画一的となった理由であろう。そして今、沖縄にも本土仕様の住宅メーカーのプレハブ工法による住宅が次第に増える傾向にある。その多くが「高気密・高断熱」をうたっている。しかし、高気密・高断熱は本来は寒冷地のものであり、東京・大阪のように都市環境が悪化した所で空調機を使った人工的な環境の中で生活するところのものである。建材からでる化学物質によるシックハウスや、家ダニ・結露などの問題の多くは高気密化が進んだ結果、表面化したものである。

我々の住む沖縄は、亜熱帯に位置する島嶼地域であり、年中温暖な地域であり本来は、自然と一体化して快適に暮らせる所であり、まだ豊かな自然も残る恵まれた所でもある。だから、もっと開放的に住むべきだ。北中城村にある中村家の住宅は示唆深い。

戦後五六年、復帰後二九年が経つ。本来七〇年はもつはずの鉄筋コンクリート造の建物が二〇~三〇年で耐久度がなくなり、建物の建替が始まっている。一方、都市がスプロール化し美しい自然が壊され宅地化が進む。今、『もっとも身近な住宅』から街や都市、そして自然環境を見直す必要がある。なぜなら、住宅は、人々の生きる拠点であり、都市を構成する最小単位であるからだ。しっかりとした住宅の考え方や作り方は、都市づくり全体に通ずるのである。そして、社会資本としての建物や都市をつくり、子孫に残さなければならない。

私たちは今、二二世紀まで残る「新しい沖縄の住宅」を模索している。今の住宅に必要なのは耐久性であり、社会性であり、住み手を感動させる個性ある空間の存在である。沖縄らしさは沖縄産の資材を使うことだけではない。台風・白蟻・塩害に強く、安価な建築資材は今のところやはりコンクリートだ。まずは、水分の少ない良質のコンクリートでしっかり施工し、定期的な維持管理と補修をし、耐久性をあげ、ローコストに造ること。次に、かつての沖縄の住宅のように、家族の団欒があり親類や友達や仲間が集まる場をつくること。そして、沖縄の素晴らしい自然環境を享受できる空間や仕掛けをもつ住宅をつくることである。そのために我々は、広くて天井の高い半戸外の空間(パティオ)を家の中央にもつ住宅を設計している。このパティオは快適な自然をうまく受け入れながらも、きびしい自然を遮るところである。そして常に人々が集うところでもある。一言で言えばリゾートホテルのような楽しく美しい夢のある住宅や南風のリゾートの都市を夢見ている。沖縄はその可能性があるところだ。